冬場の適正換気量を維持すると通常加湿では湿度が保てないことが判明しましたので(2020)、当院では温度と湿度をモニターし、適応畳数の3~5倍の加湿器で適正湿度(40~60%)を保っています。
冬は乾燥しやすい季節です。湿度が下がると、放出された飛沫は水分を奪われて軽くなり、遠くまで漂う飛沫の数が増えます。理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」によるシュミレーションの結果、1.8m前方にいる人に届く飛沫の個数は、湿度30%以下では湿度90%のときの3倍程度増えることがわかりました。
WHO等により、室温温度の下限値を18℃とすることは、一般住民の健康を維持するためのバランスのとれたものと推奨されています。また、40%を相対湿度の下限値とすることは、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、現時点の知見では妥当と判断されています。
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部では、冬季の外気温が低い環境下において、換気の悪い密閉空間の改善と適切な室温及び相対湿度の維持をどのように両立するかについて、有識者の意見、文献、国際機関の基準、国内法令基準を考察し以下のようにまとめています。
冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気方法(厚労省)
- 居室の温度および相対湿度を18℃以上かつ40%以上に維持できる範囲内で暖房を使用しながらの換気をすること。
- 維持できない場合は、換気に併せて空気清浄機を併用すること。
- 一方向の窓を少しだけ開けて常時換気する方が室温変化を抑えられ、窓を開ける幅は、居室の温度と相対湿度をこまめに測定しながら調節してください。
室温低下による健康影響を避けるための温度基準について
WHO(2018)は、低い室内温度は、冬期の死亡率や呼吸器系疾患等の罹患率の増加に寄与すること、特に高齢者については、呼吸器系と循環器系の疾患であり、子供については呼吸器疾患がほとんどであるとしています。
呼吸器系疾患及び循環器系疾患に関する文献的レビュー結果を踏まえ、18℃は室温の下限値として、一般住民の健康を守るために安全でバランスのとれたものであると推奨しています。
感染症対策としての相対湿度の下限値に関する文献
ビル管理法においても、相対湿度の下限値として40%を採用しています。
その根拠の一つとして、インフルエンザウイルスの不活性化率が最も高い相対湿度は40~60%にあるとの報告(Shaffer et al.1976)や、感染症患者から排出される飛沫中のインフルエンザウイルスを3時間で不活化するには、室温18℃の場合、相対湿度が50%~60%とすることが必要との報告があります(中山 2009)。
エアロゾル状態での新型コロナウイルスの不活性化率と相対湿度との関係については、条件によって異なる結果が報告されています。
Dabisch et al.(2020)は、日光を遮断した状況下における室温20度での新型コロナウイルスのエアロゾル不活化率は相対湿度70%のときに有意に高くなることを報告しています。
Smither et al.(2020)は、細胞培養地(TCM)を使用したエアロゾルと人工唾液を使用したエアロゾルについて、日光を遮断した条件下での生存率を調べたところ、TCMについては、相対湿度40~60%の生存率は68~88%の時より高く、人工唾液の場合は逆の結果となったと報告しています。
Biryukov(2020)らは、物体表面における新型コロナウイルスの半減期を比較した研究で、物体の材質の違い(ステンレス鋼、プラスチック、ニトリル手袋)による有意な違いは認められないが、24℃におけるは半減期は、60%及び80%の時の半減期と比較して有意に長かったと報告しています。